chanubeka’s blog

性的虐待を取り扱っている作品を、感想とともに紹介します。

長崎さゆり 「アイスドール」

長崎さゆり「アイスドール」2018

 

こちらは、「姉妹の鏡 ブスで賢い姉と美人でバカな妹」を表題作に含む短編集のなかの一つです。

 

ひとこと:長崎さゆりさんの漫画はどれも心が温かく涙してしまうような、それでいてダークな部分もあるストーリーになっています。どれもお勧めです。長崎さゆりさんの、「天使の腐臭」もまたこのブログで紹介します。著者は亡くなっています。

 

概要:叔父からのレイプなど、家庭に恵まれず、誰からも愛されず育ってきた主人公は男を出会い系でひっかけ妊娠したと嘘をついてお金を揺すっていた。ある日男に写真をばらまくと脅され、金をゆすられるように。行き詰まりになり自殺しようとしたところ会社の課長(女性)に助けられる。

 

みどころ:課長の家で抱きしめられて主人公が泣いてしまうシーン。

 

感想:とにかく長崎さゆりさんの、絵柄が好きです。主人公のツンとした目とか、課長のやさしそうな表情とか。主人公が泣いているシーンの心の声はわたしも共感してうるっときてしまいます。氷が本当に涙で溶けていくようです。一つ一つの言葉に心が込められているし、登場人物の背景がしっかり設定されていて共感できます。好きだったらぜひ長崎さゆりさんの、他の漫画も読んでみてください。

 

アニエス・トゥルブレ 「私の名前は・・・」

アニエス・トゥルブレ の 「私の名前は・・・」2014年

 

ひとこと:あの有名ファッションブランドのデザイナー、アニエスベーさんの監督映画です。本名アニエス・トゥルブレ名義です。

 

概要:性的虐待を父から受ける娘が家出し、トラック運転手と旅に出る。

 

みどころ

①少女とトラック運転手が心を通わせる様子が旅の爽快感とともに描かれる、映像美。レストランに行ったり、スーパーに行ったり、森の中を歩いたり、歌ったり。非日常感。時々出てくる、コラージュのような編集。

②最後

 

感想 (ネタバレ防止のためぼやかして書いています。)

とにかく映像がきれいです。ストーリーとあまり関係ない人も出てきますが、すべて芸術として、作品として美しい。主演の少女の表情も含めて。最初と最後以外、旅のシーンは、もう一度みたいです。あの美しさが、結末を際立たせているのだと思いますし、あの結末に様々な惨さが現れているのだと思いますが。

最後、なぜ?と思ったのですが、少女を守りたいと同時に、亡き娘のために犯罪者にもなりたくなかった彼はああするしかなかったんだと思います。でも、あの方法が(つまり明るみにならないことが)少女を守ることにつながるという構造がもう辛いのです。

ああ、それだけあの事実が持つ意味は重いのだ、語られえないのだというのと、突然の結末にびっくりしたのとで、泣いてしまいましたが、やっぱりこの映画の見どころは映像と二人が心を通わす様子と旅の非日常感、つらい現実にあった逃避行的時間・思い出にあると思います。

 

 

アニエスベー自身は、真実は何か分からないというテーマだったようです。

無言の壁。

語られえぬ真実。

語られえないからこそ守られるもの。

少女自身が沈黙し、その沈黙が彼に沈黙を強制した。

最後の独白からすれば、トラック運転手の最後の行動は少女にとってよかったのかも。

だから悲しくてやりきれないんですけどね。

 

ふみふみこ 「愛と呪い」

ふみふみこ さんによる漫画(全3巻)2018年

 

ひとこと:わたし自身この漫画を読んでなぜかとても救われた気がして泣いたのですが、Youtube shortをぼーっとスワイプしていて流れてきた鬱漫画ランキングで一位になっていて自分にふっと呆れ?笑ってしまいました。グッズパーカーも買ってます。

 

概要:宗教にのめりこむ家庭で父親から性的接触を受けて育った愛子の幼年期から中年までの記録。家族から受けた愛と呪いを感情豊かに鮮明に書いている。

 

みどころ:

ふみふみこ さんの絵力(特に愛子の泣き顔と絶望顔)

②心をえぐられる言葉とコマ割り、文字と絵の配置

③青年期特有の自意識の過剰さから中年に向かうまでの特有の感情表現の豊かさ

④実際にあった事件も出てきており時代背景も感じられる

 

好きなシーン(ネタバレ注意 ぼかして書いています)★は特に好きなところ

第一巻

①妊娠を疑って笑うシーン

②表紙にもなっている、愛子が泣くシーン(あの引用もありますね)

★③松本さんに浄化されるシーンと裏切られるシーン(あの落差の表現と「ほんまくだらん」の愛子の顔が秀逸です。)

④今の愛子が昔を回想して感想をいうシーン2つ(あほやなぁ、からの今もある苦しみ)

 

第二巻

①なぜ家を出なかったか、怒りをぶつけなかったか、自殺しなかったか語るシーン(まさに題名の意味がわかる部分でもある。特に共感する。)

★②体育祭をフェンス越しに眺めながら田中さんに自分の過去を伝えるシーン。そこで自分と違う世界をうらやむシーン。

③自殺未遂後田中さんに説教されるシーン。あの言葉にはグサッときました。

ゴルフクラブを持ちながら母親を、これまで母親から受けた愛を回想しながら、見る愛子の顔。

 

第三巻

★①結婚相手を家族に紹介するシーン(わたしも結婚するとしたら来るであろうこの状況をどうするか、よく考えています)

②愛子が離婚を決意して、肩の荷が下りた理由を書いているシーン。なるほど、と思いました。わたしが苦しんでるのもそういう理由なのか?と。

③お母さんが謝るシーン。愛子がのべる、ただひとつの感情と、最後の一言が胸にきます。もうどうにも、ならないんだと。

 

感想

とにかく共感できるポイントが多く、わたしも関西人なためか、実際に思って感じたり書いたりしていたことが一字一句同じ言葉で表現されていたりしました。父からの性的接触が生む愛と呪い、そして青年期の自意識過剰さとどうあがいても乗り越えられない呪いを鮮明に描ききっていると同時に、救いがあるようで、ないような漫画です。同じような体験があると、この漫画の表現にとても共感できると思います。自分の気持ちの整理の表現がこの漫画に大きく影響されましたが・・・

 

個人的な感想

愛子には、これは私か?私なのか?と思うくらい共感しました。世に出てないだけで、こういう状況ってよくあるんだと思います。よくあるんだと思うことで自分は辛くないと思いたいだけでもあるんですが、少なくとも今どこかで同じ思いをしている子供がいると思うと、辛くて仕方がありません。でもわたしは何もできないのです。同じ状況にある彼らを救おうとする活動を表立ってすることが、私の家族を壊してしまうのかもしれませんから。

共感するといいましたが、愛子と私が違う点がいくつもあります。

愛子は母親や田中など、愛子が受けたことについて知っている人がいますが、わたしには、そのことを話したことのある人はいません。(母親が知っていたかは不明)

愛子はぐれましたが、わたしはあそこまでぐれることはできませんでした。

宗教にもわたしは無関係に生きてきました。

わたしは愛子に共感しつつ、自分にはないところまで振り切っている愛子にどこか憧れたのかもしれません。

 

おそらく、この種の経験に限った話ではありませんが、こういうのって乗り越えたりするものではなく、一生付き合っていくものですよね。でもそこに絶望があるんですよ。もうどうにもならないんだって。わたしも、もう大丈夫なんだ!って思ってから夢に出て目覚めるという繰り返しを何度したことか。暴力との大きな違いはやはり自分が辱められることだと思います。だってなんか恥ずかしいですよね。それって。表沙汰にできない、したくないと思わせる力があるんです。同意のない性的接触を受けたことがある人はわかると思うんですが、体がかちんこちんと固まって、そして体中の血液が沸騰するような感じがしませんか?赤黒い何かが固まった体中でとげとげしくうごめいているような感じ。ことが終わったら、拒否できなかった情けなさと相手への怒りがじわっと涙とともにあふれるんです。ひどいタイプの接触だと、そのようなものすら感じず、恐怖すら感じず、ただただ固まったりもしましたが。

それに相手を悪にもできないんです。だって親なんですから。そのとき以外は、本当に普通の、いや普通以上の人なんですから。わたし、虐待と呼ぶことにすら躊躇を感じちゃいます。(検索に引っかかるよう使ってますが。何か代わりの言葉はないですか?)もちろん、そうでない人も、憎んで仕方がない人も、いるでしょう。

その二重性に苦しんで、わたしはぐれるかわりに、あらゆるものに鈍感になりました。何にも興味がわかないというかぼーっとするだけというか。歌詞とかも覚えられないし、昔見たアニメとかの記憶も全部混ざっちゃったり。

それでも家を出てから、少しずつ生気を取り戻してきました。でも、あのことで悩む時間は、今のが多いんですよ。当時は、その瞬間と直後くらいしか苦しんでなかったような記憶があります。

 

正直、愛子みたいに、ずっとあのことと付き合っていくのは嫌です。結婚もしたいし子供も生みたいです。でもそうやって自分自身すら過去を透明化してなかったことにすることで、自分自身すら、一番苦しんでいる自分を見捨てることになってしまうんです。でも向き合ったら沼に沈みそうだし。もう、浮かんだり沈んだりの繰り返しがあるだけなんですよ。これからずっと。ほんとに、ひどい話ですよ。

なんだか茶化す口調になってしまっていて本当に申し訳ないのですが、私自身ヘラヘラすることで生き延びてきた節があり、またこういうことを人に見える形で語ったことがないので、どうすればいいのかもわからず、でも重すぎても自分がつらいだけだし。でもいけないんですよね、きっとこういうのりって。それで傷ついたり、傷を受け入れちゃったりする人がいるのかもしれませんし。もし読んでいる人がいたら、決して自分の経験は茶化さないで話してほしいです。もちろん、わたしが茶化すのは自分の経験だけですが。

 

 

わたしはこれまで自分の責任で泣いてきましたから、誰かに助けを求めたいですね!